写真をどう使って楽しむか「お散歩写真概論」

ジュンク堂書店が無料で配布している美術書紹介冊子「deflag」を参考にして最初に読んだ一冊はこの高橋美江さん著「お散歩写真概論」。次の紹介文はたった64文字でぐっと迫る魅力があります。元より、路上観察学のコンセプトと同義ではないでしょうか。

街歩きの達人が「ハレ」(祝祭の場)の舞台を上手く撮る技術ではなく「、ケ」(日常)を面白く撮る“視点”を伝授。街を見る目が深まる。

ジュンク堂×丸善 美術書カタログ2013 deflag

本書では写真のタイプを絵はがき、記念写真、スナップ、報道の4分類にして恣意的に定量分類しています(図1)。これら4つを眺めてみると、やはり意図して撮るため意味的と具体的が高くなる傾向が見えます。何かの目的のために撮影して記録に残す、というのが

図1:P6のレーダーチャートを引用

図2では一旦世にある写真のポジションを明示した上で、お散歩写真がどのような位置づけなお写真かを同じパラメーターで視覚化しています。

お散歩写真
まち歩きで写真を撮るときに、目にはいるすべてのものを被写体としてみると意外な風景やモノを発見できます。更に踏み込んで情報を集めてみると、まちの未知の姿が見つかり感動的であったりします。そんな”まちの宝探し”を実現させてくれるのが「お散歩写真」なのです。

P5より

アート系とヨミトク系のラインの間すべてがお散歩写真となります。ちなみに、ヨミトク系とは「風景やものに潜む歴史や意味を楽しむ」ためのもの。文化人類学のフィールドワーク的な意味が含まれていますね。

本書が書かれたのが2012年ですのが、2019年現在ではInstagramにより、一層ケのモチーフにした写真が増えていると考えます。

図1:P7のレーダーチャートを引用

「フォ解き」の面白さ

旧前田侯爵邸の周囲に残る謎の外壁@目黒区駒場, 2018

本書からの学びとして重要だと思ったのは、古典的に宗教画などの意味を解釈する絵解きを転じてつくった造語「フォ解き」ではないでしょうか。撮った写真を解釈して、なぜそれがそこにあるのか、どんな意味があるのだろうかを仮説立てしてみることです。

僕は写真にまつわる教育を正規に受けた経験がありますが、アートの感覚的な写真でキャプションがないものを見るのが得意ではなく、ずっと立ち止まってみていると頭痛がしてくるほどです(泣)。

特にイギリスでは、記号論を勉強し構図や被写体などの構成が何を意図しているのかを解釈する練習も一応はしました。それでも、題名なしで抽象度が高く見る側に委ねるものは今でも苦手です。

一方、自分で意味不明なものを見つけて、それを考えた断片をキャプションにしていくのは楽しく、好きな行為です。これこそまさに「フォ解き」の極意なのでしょう。

著者は、技術など二の次でよく、撮る前の被写体への興味や「町の宝探し」をすることが大切だと述べています。写真のプロでないからこそ、写真で何を写すか、またそれを使って何をするかに焦点があたっていてとても面白い本でした。

ぼくはTBSラジオの「安住紳一郎の日曜天国」を毎週楽しみに聴いていますがゲストコーナーに登場する写真家は、皆さん写真界の権威ではなく、団地やダムや廃道など不思議で珍しいものを収集する手段として写真を使われています。伊集院光さんも、落ちてる手袋やからすの巣を撮って集めているそうですよね。

フォトジャーナリズムの解釈の一つとしては、写真をジャーナリングするとすれば、ケのモチーフの写真から具体も抽象も、偶発も意図もなんでもオモシロイと思ったら撮ってしまうことがよいのだともいます。

さて旧前田侯爵邸の周囲に残る謎の外壁の写真は、駒場で見つけたものです。元々公爵邸の内側だったのでしょうか。3つの壁が組み合わされたようで、かつて改築して入り口が作られたのか、新たに高い壁が作られたのか、いずれにせよかなり古い壁です。(昔ポーランドでみたゲットーの壁を思い出していました)売却されたのか内側には住宅地が広がっています。奥には今の門があります。どうもGoogleで検索してもこれが何ものかは出てきませんが、仮説を立てたら近所の人にちょっとヒアリングしたらすぐにわかるでしょうね。