KOOPI CEYLON / セイロンコーヒーを再び

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Do you remember your first experience drinking coffee? Was it a good or bitter taste? This story is about coffee culture cultivation as a social business in Kandy, Sri Lanka. Slowly this habitually tea-drinking country is having its first experience of drinking coffee. With this photo story, I wish to convey how the revival of the coffee industry hopes to reinforce the fair relations between rural areas and cities and the beautiful processes of coffee production.

はじめてコーヒーを飲んだ時のことを覚えていますか?その時の感想はどんなものだったでし ょうか。ただ苦いだけの体験だったかもしれません。この本は、スリランカの古都キャンデイ を舞台にしたコーヒーの物語です。今、紅茶をこよなく愛するスリランカでそのはじめての経験が広がっています。この本では、コーヒーを通して構築される森と町の新しい関係や、栽培や生産の過程の美しさをお伝えできたらと思います。

あとがき

ファウンダーの吉盛真一郎氏は、日本の建設会社の駐在員としてスリランカで五年半を過ごしました。その間、約三十年間続いた内戦による数多くの惨状を目のあたりにしました。2009年にようやく終結したその内戦は、貧困をはじめとする多くの社会問題を生み出したのです。彼はその現状を見て、何かスリランカ社会に貢献できることはないかと考えていました。それと同時に、勤務していたダム建設現場のまわりに植樹されたコーヒーの木にも高い関心を持ったといいます。残念ながら、それらのコーヒーのほとんどは適切に収穫、加工されていないため、安く取引され村人の生活を豊かにするほどの利益を産んでいませんでした。これらの現状を見た吉盛氏は、建設会社の職を辞して事業に乗り出そうと決意しました。しかし、これまでの建設会社での仕事を継続しながら、一定の時間をコーヒーのプロジェクトに割くことが勤務先の会社から許可されたのです。そこで設立されたのが、日本フェアトレード社という会社です。2013年現在、吉盛氏の駐在先はインドへと変わりましたが、電話やメールでの打ち合わせをはじめ、一ヶ月に数回はスリランカに訪れてプロジェクトを推進しています。セイロンコーヒーのプロジェクトには三つの柱があります。ここではそれらについて 紹介いたします。

「目に見えるフェアトレード」

吉盛・タランガ両氏のリーダーシップにより、二つの村で森の組合が設立されました。二つ の組合と日本フェアトレード社の間では、コーヒーを適正価格によって取引する契約が交わされ、カフェでの売上の一部を組合に還元するための共同の銀行口座も開設されました。
組合は、その基金を村の農業や生活向上のために使うことができます。組合会議は定期的に村やカフェで行われています。また、国内消費に加えて、2013年には二トンのコーヒーが日本に輸出されました。

「コーヒー産業・文化の普及育成」

吉盛氏は実際にコーヒーを飲まないスリランカの人たちが、コーヒーの価値を想像するのは難しいと考え、まずはカフェを設立することにしました。ただお客さんにコーヒーを提供するためだけではなく、生産者である村人やサービスをするスタッフにも、コーヒーがどのように楽しんで味わってもらえるのかを知ってもらうために、カフェは大切な役割を担っているのです。コーヒー一杯の値段は、フェアトレードを維持するために高めに設定されています。そのためプロジェクトメンバーは、セイロンコーヒーの背後にある物語やコーヒーの効用を伝え、価値を高めていく努力を重ねているのです。

「女性が安心して働けるプロフェッショナルな接客業の育成」

スリランカではサービス産業は女性の職場としてあまり開かれているとはいえず、健全な職業としてみなされていないという現状があります。ナチュラルコーヒーはキャンディでの最初のコーヒーハウスとして、接客業の持つイメージと実態を、健全でかつプロフェッショナルなものへと向上させようとしています。彼らのモットーは、「プロフェッショナルであること、美しさを提供すること、チームワークを大切にすること」の三つです。質の高いサービスを提供 することが、コーヒーの価値を向上させると信じて日々取り組んでいます。

私がスリランカコーヒーのプロジェクトを知ったのは、2013年3月に知人がフェイスブックに 「スリランカの古都にできる最初のコーヒーハウスの接客トレーニングに行ってきます」と投稿したのがきっかけでした。詳細を尋ねるとそれは単に利益を追求するだけの活動では なく、社会還元も目指すものだとわかりました。面白いことが起きようとしているという直感があり、すぐに代表の吉盛氏を紹介してもらいました。吉盛氏にスリランカでの活動を撮影させてほしいとお願いしたところ、ご快諾いただき直ぐにスリランカ入りしたのです。

スリランカでは、吉盛氏からこのコーヒープロジェクトに対する確固たる信念を聞き、強い感銘を受けました。特に先述した三つの目的の中でも、現地完結型フェアトレードの取り組みは、お金と農作物の公正な取引だけではなく、生産と販売・サービスの現場で何が起きているのかを目で見て理解することができ、村と町のカフェ双方での人々の働きがいにも繋がってゆく、非常に価値ある取り組みだと考えました。

また、コーヒーを飲む習慣の無い国で、新たにコーヒーに価値付をしていく活動も魅力的でした。そう思ったのは、価値が認められていないものを人々はどのようにして好きになっていくかということが、という私のもう一つの専門であるマーケティングの本質的なテーマでもあったからでしょう。スリランカでは、大都市コロンボで暮らす一部の先進的な人々を除き、コーヒーを飲む習慣がなく、一般の人々はコーヒーを胃腸薬として飲んだりします。その話を聞いて、自分が子どものころにはじめてコーヒーを飲んだ記憶が蘇りました。はじめはただ苦かったコーヒーが、目が覚めるという効用や大人になったような気分になるという付加価値を知ることで、気がつくとあの苦味をおいしいと思うようになっていました。不思議なものです。ぜひこの過程もドキュメンタリーとして撮影したいと思いました。最後に、吉盛氏の働き方や起業のあり方について強い関心を持ちました。

近年、パラレルキャリアや複数の専門スキルを繋げることで、自分だけの専門性や職業を確立することの価値が高まっていると言われています。吉盛氏は、日本の大企業で財務・管理として働きながらも、三十代後半で自分の果たすべき役割を駐在先の社会に見つけ起業しました。しかも、ユニークな職業の開拓とその仕事の専門性に加え、二足のわらじをタフにこなす気力と体力の維持にも努めています。人生で仕事に費やす時間は膨大です。そんな時間をどこでどのように誰と何をしたいのか、それは私にとっても大きなテーマでもあり、その 点からも私は本プロジェクトに魅せられたのです。

関連リンク

Lonely Planet: Natural Coffee