2010年10月に写した故郷の用水路(小切戸川)。その名を水仙ロードという。10代のころに何気なく見ていた風景に強く惹かれたのは、この時期、中国上海に転勤し仕事をしていたからだ。
2010年夏に開催された上海万博の熱が終わり、1〜2年でまた一段と大都市へと姿を変えた上海の喧騒と仕事に疲れていた。人はないものねだりで、ずっと七宝に住んでいたらそんな大都市の激動ぶりを魅力に思い、逆にそこでの生活が長くなると落ち着いた山まで見通せる環境が価値あるものに思えてくる。
ぼくが小学生だった1980年代には、この道は特に名前もついておらず水仙の絵が描かれたフェンスもなく、護岸工事も旧式のものでよ簡単に川まで降りていって釣りをしたものだった。あの頃は、確かコニカのサブマリーンという小さなカメラを持って友達や釣った魚を撮影していたことを思い出した。楽しくて、だけどちょっと窮屈にも感じていた少年時代。
その後、水仙ロードと名付けられ、白に塗られた柵が整備された。こうしてみると、緑色のフェンスは殺風景だけれど、白というのは風景を邪魔せず美しい。
この写真を撮ってからまた8年ほど経った。小さなところでは、火の見櫓が倒壊の危険ありということで転居された。この風景は細かいところを除き大きな変化はなくまだある。何にもないなあと思った10代から20代を経て、一回りしてこういう一朝一夕では作りえない田園風景は貴重だ。建物と人でぎゅっと詰まった都会生活に疲れたら、景色の開けた思い出の場所にふらっと出かけてみるといい。前より少しだけ自分にとってより大切なところになっているはずだ。