早稲田大学に2001年ごろまで存在した地下部室を写した写真集です。
かつて早大写真部に在籍した妻の友人が出版したもので、一冊2003年に自費出版されたものが我が家にあります。
2001年に部室は取り壊しが決定され、永久に失われてしまう早稲田の有形無形の場の力をなんとしても残したいと思った大窪さんが、部室を一つづつまわり話をしながら写真を撮っており、エスノグラフィーとも言える作品です。
カオスとも言える各部室は、すべてモノクロで撮影されていることで色の情報が絞られることで、逆にその場にある人やモノをじっくりと観察することができます。
早稲田というと、バンカラだとか、在野の精神などが僕の世代はよく聞いたキーワードだと思いますが、まさに部室の姿は、そんな風景を彷彿させます。
とくに管理されていなかった空間に、同じ趣味を持つ仲間が集いはじめたのがはじまりに違いない。新入生が入ってくると仲間に引き入れ、たまり場の定位置が定まると、となりのサークルとの境界をベニヤ板で仕切り、どこかから机や椅子を調達する。地下部室は、学生たちが自分たちの活動のために作り出し、受け継いできた”秘密基地”だった。SNSなどなかった時代。地下部室は、同世代の同じ趣味を持つ仲間と出会い、親交を深める大切な空間だったのだ。
Amazon商品説明文より引用
著者の大窪さんが書かれているように、自然発生的に現れたその雑多な空間はかつて20歳前後のまだ何者でもなかった学生たちが、気が向くまま好きなことを掘り下げたり、横との緩い関係性の中で、新しい発見をするまさに秘密基地のような場所だったことが想像されます。
そもそも、当時は今と違い、スマホもなかったので、人々はもっと顔をあげて他者と目が会う暮らをしていたなあと思い出されます。
その後、学生会館や多くの部室が壊され、新たに大学側が管理を強めた背景には複数の要因があると思います。その中でも、学校祭の中止にまつわる背景とは関係があるかもしれません。「早稲田祭復活の奇跡」には、旧学生会館が政治活動団体によりどのような状態だったか描かれている箇所があります。
主に各校舎の地下を中心に発展してきた「部室」は、文字どおり、アンダーグラウンド=地下であると供に、なにか新しい文化が生まれ得る土壌としてのアンダーグランドでもありました。とくに目的もなくだらだらと過ごすうちに自然に生まれてくるもの、これがアンダーグランドな文化であり、なにか新しいものが自然発生する場所が「部室」だったのです。
書籍版あとがきより
アンダーグランドのような場。システムの外側で育つ時間は、社会が成熟していくとだんだん無くなっていくでしょうね。それは、人間も同じかもしれません。僕自身、成熟しているかどうかはさておきおじさんになって管理する側の視点が強くなっていくのに気づきます。
失われてしまった場の姿を記録した貴重な一冊です。
Kindle版が2019年に再編集されて入手可能です。サンプルで拝見したところ、書籍版には無い写真も含まれれているようでした。