
今年の春でIAMAS(情報科学芸術大学院大学)での2年目の研究生活に入りました。
1年生では前期で授業がありましたがが、その他は個人単位でプロジェクト研究Ⅰと言われる研究を進めます。私は、小林茂先生のゼミに所属しており、そのメンバーとともにそれぞれの専門分野を発表し議論しながら指導を受けています。具体的には、隔週で本ゼミ、間で自主ゼミをそれぞれ90-120分ほどリモートで実施する流れです。
個人の研究生活は、最低でも1週間に2日は研究日をブロックするようにして進めています。予め、ブロックすることで最低限の時間を確保できています。やむをえず、仕事が入る場合は、そのほかの日で調整するようにします。私にとっては仕事は実務視点で比較的身近な事象を扱い、研究はもう少し中長期で社会や人を見つめることになるため、どちらも大事。このバランスが取れるようにしています。
1年目は、後期から畏敬の念の創造性への影響に関するレビュー論文の執筆に取り組んでいます。レビュー論文というのは、これまでの科学的研究の事例を文献研究を行うことで統合し、新たなフレームワークを提案する論文です。
畏敬の念(awe)は、ウェルビーイングを高めたり、自己中心的な考えを弱くし社会や人に尽くすようになるといった効果が報告されています。また、近年、創造性を高めるのではないかとも言われており、複数の実証研究が根拠として示されています。しかし、まだそのメカニズムは明らかではありません。そこで、私は、現時点で明らかになっているファクトをベースに、なぜ畏敬の念が創造性を高める効果を持ちうるのかを整理し仮説モデルを提案しようと考えました。
最初に、この論文を書くことにしたのは、博士研究の目次となる文献レビューを実施しておきたかったというのがあります。もしこの論文の査読が通り、学会誌に掲載されるとなると、文献研究の章についてお墨付きを得ることができ、その先、理論仮説を実証する研究へと進むことができると考えたからです。しかし、理論で論文を一本書くということは、非常にハードルが高いことも思い知るのでした。
これを記している2025年8月現在も、この論文の執筆に取り組んでいます。道のりとしては、2025年2月に投稿し、複数回の改稿の後、まだ改稿に取り組んでいるのが現状です。
私のように社会人学生として修士課程から20年以上のブランクがあると、文献研究のイロハから学び直す必要があります。修士課程の頃まで、実はあまり本格的に文献研究の方法論については学んできていませんでした。
ゼミでは、The Literature Review Fourth Editionを輪読し文献研究の方法を学びました。この本は、主に社会科学の分野において論証することの技法が丁寧に説明されています。さすがアメリカはこういった方法が確立していると思ったものです。Evidence, Claim, WarrantによってどのようにResearch caseを構成していくのかが解説されています。この辺りのキーワードを目にして、関心を持たれた方、この本をぜひ手にとってみてください。私が出席した博士審査においても、この視点が常に問われているのだと認識しています。本を読み、実際に自分で論文を執筆し、フィードバックを受けながら、この本で述べられている研究のベースが磨かれていくのだと思っています。
今年の冬までにはなんとかレビュー論文が掲載される水準まで磨き上げたいものです。そうすることで、博士論文執筆要件である、査読付き論文2本のうち1本を達成することができます。同時進行で、秋には実証研究も予定しています。ちょうどそのための心理学予備実験を終え、本実験での更新事項を洗い出しています。また、予備実験のデータを使って秋に初めての学会ポスター発表もしてくる予定です。
そのような感じで、博士課程2年目は実践的な取り組みで慌ただしくもすぎていきそうな勢いです。
3年半、もしくは4年で無事に博士号の取得まで迫れるだろうか。地道に一歩づつ進めていきたいです。
[写真:夏の逗子海岸]