今回は、土地探しの際にご紹介した「理想の住まい計画書」に続く、もう一つの作文「暮らしのストーリー」をご紹介いたします。
前回の投稿はこちらですのでまだの方はご覧いただけましたらと思います。
家族の家に対する想いを見える化しイメージを合わせていく
土地探しの次に私たちが取り組んだのが、設計を担当いただきたKADOTA DESIGN STUDIOの設計士・門田さんと実際の住まいの計画を詰めていくことでした。2019年10月から翌年1月くらいまでほぼ毎回2-3時間ほどかけて、間取りや設備、外構などを巡り設計の決定をしていきました。
私たち夫婦は、細かな設計の話をする前に、家族でそこでの暮らしの理想を「暮らしのストーリー」としてまとめました。前回の「理想の住まい計画書」より、もう一歩建物も含めた議論と文章化をしたことになります。
「暮らしのストーリー」を書く
この文章を書こうと思ったきっかけは、ドキュメンタリー映画「人生フルーツ」の中で、津幡さんが晩年ある医療施設を設計する際に、患者さんやそこで働く人々が、その場所でどのような気持ちになって過ごすことができるかをイラストと文章でまとめていたのを見たからです。
人や環境の体験や持続性を中心にして何が理想かを考え具現化していく、普段やっているデザインリサーチの仕事でも似たアプローチをとっているとも思いもいました。
私たちは、それぞれが考え、手を加えやすいように、Google Slidesを使って文章を起こしました。(Google Slidesを使ったのはこの先のページに、内装や外装のデザインイメージを写真やイラストで集めて貼っていったためスライドが便利だったからです)
主に私が記して、妻にコメントを入れてもらって追記したり修正したりしながら進めました。こういうコンセプトに関わる作業は、事前に少しアイデアを出し合って大まかな方向性が握れていれば、よりやりたい方がまず手を動かしてから共作した方がスムーズだと思います。そして、設計士さんには、このスライドを共有しているので、打ち合わせの前に見ていただき、当日の議論を深めることができたと思っています。(項目はご家族が大切だと思うものを入れてみてください)
「暮らしのストーリー」
Nagae Houseは、海と山の間にある一家3人と一匹の猫が暮らす家です。
そこでは、心と身体がうれしい自然の中での日々の暮らしと、ときにクリエイティブな仕事に向かう時間が併存しています。借景
北側には、森戸川のせせらぎが広がり、その風景を見つめながら過ごす時間は、街で過ごす時間にざわざわ気持ちを開放してくれます。広がりのある景色を背景に読書をしたり音楽を聴いたり、勉強をしたり、豊かな時間を過ごしています。また、何か新しいアイデアを発想したいときも、山や川に向かっていると自然と集中力が増してきます。キッチンと食事
北側の庭には、菜園があり、季節の野菜が育っています。「今日何食べよう?」と考えているときも、ふと目に入る菜園の様子から思いついてそのままキッチンから摘みに出ることも簡単です。
ごはんを食べるときも、毎日が特別です。外が気持ちいい季節にはウッドデッキでコーヒーを楽しんだりもできるでしょう。間取りの自由度を残した2F
2Fはオープンな空間がほとんどです。将来必要に応じて区切れるように予め電源や壁の目処はたててあります。間取りの自由度を残すために、クローゼットも最小限として、ウォークインクローゼットを集中的に配置しています。
吹き抜けを活用してワークスペースが作られています。吹き抜けの窓から見える山の景色が仕事の疲れを癒やしてくれもします。
階段スペースは、この家最大の図書スペースでもあります。壁一面に広がる書棚を、階段の昇り降りはもちろん、吹き抜けやダイニングからも見ることができます。思わぬ場所から思わぬ本とのめぐり合わせがある特別な空間です。ワークスペース
自営業のShintaroとShihoは、家の中での仕事時間も多くなります。気分に合わせて、仕事場所を変えることができます。
たとえば、デザインリサーチャーとして新規事業のコンサルティングに携わっているShintaroは、2Fの吹き抜け側からを見ながら未来を構想するのがお気に入りです。しかし、同じ場所に飽きてくると、1Fへと場所を変えます。1Fの通り土間には、小さな作業スペースがあります。この部屋には机と椅子が置いてあり、ちょっとした作業もできます。光をシャットアウトすることで暗室としても活用できます。ちなみに、この部屋は玄関の外にあるため靴を履いて利用するため、仕事とプライベートを切り替えたいときにも便利です。
家の中以外では、葉山や逗子などのコワーキングオフィスでも仕事をします。写真家で大学講師のShihoは、普段は1Fのダイニングで仕事をしています。
写真集など大きめの資料の閲覧頻度も高く、そういうときは図書スペースで資料を手に取ります。
写真の現像のときには、通り土間にあるちょっとしたワークスペースにこもって写真の暗室作業を楽しんでいます。2才の長男は、将来子ども部屋になるであろうフリースペースに小さな机と椅子を置いてときどき腰掛けては絵本やお絵かきを楽しんでいます。しかし、気分次第で1Fのリビングでも絵本やレゴを広げて遊びます。
菜園
玄関の通り土間から直接菜園にアクセスできます。ちょっとした農作業や庭いじりは、通り土間経由で行い、収穫した野菜や道具を洗ったりも土間の外の水道で可能です。キッチンからも勝手口的に出て、ハーブなどちょっとした収穫を手早くすることもできます。猫(6才)の空間
上下運動ができるキャットウォークが随所に配置されています。一番のお気に入りは吹き抜け脇のキャットウォークです。本棚にも猫が楽しめる工夫があります。また猫のトイレ空間が猫と人の生活導線に配慮して備えられています。
細かなことで迷っても、基本に立ち返りやすくなる
「暮らしのストーリー」を書くコツの一つは、あまり細かすぎることを書かず、少し抽象的でもよいので、暮らす自分たちの気持ちに注目することです。その分、この文章の細かさでは、設計は十分ではありませんしが、私たち家族としては迷いが生じたら、この文章に戻って考えると意外とシンプルにまとまることも多々あり、書いておいてよかったと考えています。
いや、設計士さんと一から設計すると、設計士さんの知識・経験や審美眼で絞り込みをかけてくれますが、それでも決める内容が多すぎて迷いが生じてくるのが普通です。間取りで迷い、そして設備を決める段階になり、ショールーム周りをしはじめると、もうそれだけで遠方まで出かけ、大量にある製品をメーカーごとに比較して歩くわけですから最初は楽しくてもだんだん疲れます。そして迷います。そんなとき、そもそも全体としてどんな暮らしを作りたいんだったけ、と基本に立ち返る時にとても役立ちます。
実際、新居が完成して3ヶ月経って、このとき書いた内容がほぼ実現できていて、設計士さんや施工会社さん、不動産会社の方々と思いを一つにして家づくりができたからだと考えています。家族を超えてチームとしての考えを深め、合わせていくのにも大切な存在です。
今回は、「移住前に作文で家族の考えを見える化する」の二回目として「暮らしのストーリー」をご紹介いたしました。
私たちは、この文章に、ムードボード的なビジュアルをペタペタと貼り付けるページをこのスライドの先に設けました。そちらもあった方が、想像するものがずれなくていいです。それもまたいずれご紹介できましたらと思います。