毛主席の巨大石像のあるキャンパスで新しい言語習得しながら、中国学生の全力の学びも知る

2009年2月、勤め先からの派遣で中国上海市にある華東師範大学の中国語学校に行くことになった。12月末に内示が出て、1月に引き継ぎや引っ越しの準備をして、やってきたのは来たこともないはじめての国。そして学んだこともなかった中国語の国。

到着した日は、薄曇りで小雨が降っていてとても寒かった。空港まで日本語が堪能な迎えの人事の社員が来てくれていて、そのまま車に乗り、広大なこの大学のキャンパスに到着後、入寮手続きを済ませ、入学手続きへと進んだ。本当に何も知らない挨拶と数の勘定だけを日本で覚えてやってきてしまった。31歳で独身で生活が一気に変わってしまったが、それを悪くないと思っていた。

約5ヶ月間、このキャンパスに暮らしながら、週数回オフィスに赴き、この長い語学研修後の仕事の準備をした。約5ヶ月も、そんな時間をくれた会社に感謝している。

寮の窓から見える風景は、古ぼけた教職員住宅群と所々ゴミ捨て場のようにちらかった灰色の世界のように見えて気分が落ち込みそうになることもあった。

しかし、2009年は上海万博の準備もはじまっており、上海市の周辺にある工場群の操業停止もあって青空の日が増えていた。そんなとき、華東師範大学のキャンパスは自然が豊かで建築物も美しく、居心地のよいところだった。

非常に広大なキャンパスで川が流れていたり、芝があったり、巨大な毛沢東の石像があったりと、自転車でなければ移動が大変なほどであった。学生たちの多くは、キャンパス内の寮に6人部屋で住まっていた。

華東師範大学は、中国の中でも名門の国立大学で日本でいうところの筑波大学のようなポジションだと聞いたことがある。

外国語学校はいわゆる語学学校なので、大学とは別物であるが、本科の学生はかなり優秀だった。家庭教師をお願いしていた女学生は、留学を目指してTOEFLを受けていて一回目の受験で120点中105点を取得し、その後数年を経てスタンフォード大とカーネギーメロン大へ留学した。僕は、発音が悪いと彼女に20回はやり直させられたものだ。

IELTSという英国留学用の英語試験を受けたが、会場がキャンパス内で、貪欲な学生は英語の面接が終わると僕のところに駆け寄ってきて内容について中国語で尋ねた。そんな様子は日本ではありえない。前のめりな姿勢に驚いた。(ついでにリスニングの機器が途中で故障しても何食わぬ顔でやり直したのも日本ではあまりないことかも)

本科や大学院生たちの研究内容を深く知ることはできなかったが、それでも学生たちが切磋琢磨している雰囲気がそこここに感じられた。

一方で語学学校は、玉石混交。企業派遣で切羽詰まって語学の習得に燃えている人もいれば、各国の中等教育をドロップアウトしたので遊学がてら来ている人もかなりいる。

大学の図書館で学生たちに混じって勉強していると、10歳は若返った気分で、これからはじまる仕事の生活とは別次元の時間の流れがあった。ハイレベルな学生たちが学ぶ図書館の環境は、どことなく緊張感があってよかった。同じような体験をミシガン大学アナーバーの図書館でもしたことがある。

僕は英語を長らくのらりくらりと勉強してきたが、中国語ははじめて数ヶ月で読み書きはすぐにかなりのレベルまでできるようになった。一方、発音、リスニングは日本語にない音が多く、難しい。ただ、日本で下手に学ばなかっただけあって、本場でネイティブに学ぶことで、進歩も速いのではないかと思う。

僕は語学の進捗はまあまあだが、一流商社から派遣されてきていた社員は6ヶ月でHSK6級取得、友人の戦略コンサル出身者も同様だった。これはTOEICでたとえれば半年で850点や900点以上を取るに等しいと思う。いくら彼らの頭脳が平均よりぶっとんで優秀であるが、英語ではそんなことはまず無理なので、中国語は聞く、読む、書くに関しては日本人には向いている言語なのではと思う。

あと、中国語は抑揚が豊かなので口の筋肉が鍛えられるのと共に、話していると元気が出る。英語に加えてもう一つならお勧めの言葉だと思うのだ。