2013年から一年と少し住んだフラットの近く(徒歩10分程度)の場所にRothehithe(ロザハイス)というかつての港町があった。テムズ川沿いをランニングする習慣にしていたので、この小さな町もそのコースの一部だった。
しかし、この一角は歴史的な建造物が多いロンドンの中でも、独特の中世の雰囲気を残した場である。石畳、古い倉庫、船にを積み降ろしていたクレーン、どこかで聞いたことがある名のとりわけ古いパブ。
走りながら、面白いものが見つかりそうな予感がしていた。Sands Studioは窓から舞台衣装っぽいものが見え隠れしていたことで、興味を持ち、立ち止まり覗いてみた。手書きのプレートに、資料室を開放していると書かれていた。
早速、ランニングを中断して入ってみると、ここは映画の衣装をつくるスタジオで、衣装づくりのためにテキスタイルやファッションの歴史的な資料を保管していた。建物は、かつてホップだったかな?なにか穀物の倉庫だったと聞いた。
ものすごく独特な空気が流れている場で、デスクがあるので、どうも勝手に調べ物や書物をしていてもよい雰囲気だった。
また、ここでピータラビットの映像化、パイレイツオブカリビアンの衣装をつくっていると後に親しくなったスタッフに聞いた。上の階は、コスチュームデザインのスタジオで、そこは映画のコスチュームなだけあっていつの時代なのかわからない環境になっていた。
実はこの建物で月に数回、30人くらいしか入れないプライベートシアターで映画の上映会と意見交換会が行われている。料金はその人が払いたいだけ支払う形式。僕もときどき通った。確か、「野火」が上映された回もあった。地域の映画やこの場にファンが集って、優雅な時間が流れていた。
僕は、大学院のプロジェクトで、古い地域の写真をリサーチすることをしていた。Sand FilmsにはRotherhitheの住民から集めたこの地域の古い写真やロンドン全域の写真もあったので(Rotherhithe Picture Research Library)、隅から隅まで閲覧した。よくお世話になったスタッフのおじさんが、コックニーというロンドン下町の方言を話す方で、2年も留学したのに英語が全然聞き取れない・・・とショックを受けたのを憶えている。
もしロンドンに少し長期滞在することがあったら、Rotherhitheという南東部の町を訪ねてほしい。Sand Films、パブ、カフェ、教会、テムズトンネルなどなどローカルな面白い体験に、観光ガイドにない魅力に引き込まれるはず。そして、都市計画に関して、古きを活かして価値を積み上げるという点において、日本の特に東京とのあまりにも大きな違いに驚くはずだ。