2016年ごろ、神田神保町に友人と昼ごはんを食べる約束があった。その後、久しぶりに古本街をぶらついていたときに偶然見つけた一冊。
見開きで一つの場所を読ませ、見せる形式で綴られている。ページを開くと、まずはモノクロの写真が左ページに見ることができる。右ページには、約500〜600文字のエッセイと手書きの略地図がある。
このシンプルにしてまとまった形式が実にじっくりくる。
この本の写真と文章のバランスが好きであることから、やはり僕はキャプションを飛び越えてテキストに占める情報が大きいのだろう。
章立ても興味深い。駅、樹木探索、小さな旅、花、文学散歩、水、下町にそれぞれ10〜11のフォトエッセイが掲載されている。
とりわけ印象的だったのは、上野にある博物館前駅、武蔵野・国木田独歩。あ、あの芸大に向かう途中にある趣のある駅は、2000年に入るくらいまでまだ利用できたのか!と次回中に入れる機会を探ったり、小説「武蔵野」を改めて読んで、そうか小金井のあたりの住人は東京市のころはまだ自分たちは東京という意識がなかったのか、と武蔵野の範囲について考えてみたりした。
写真からも学びが多い。エッセイと対で存在する写真は、過度に説明的に広くを写すことは少なく、主題の特徴にクローズアップされているように思えた。写真で全てを語るのではなく、エッセイと合わせて想像するということも楽しい。40mmのコニカミノルタを持参されているとの描写がある(もちろん他にも複数レンズは持ち歩かれていた)。やっぱり40mmくらいの画角は広すぎず、狭すぎずいい感じ。
本自体は1994年の発行だが、連載ものに手を入れて再構成されたとのことなので80〜90年台の東京の風景が広がっている。
モノクロの深いコントラストが、美しい。現代のデジタル加工のように過度に編集されすぎた感がない。この前、家人と、シャドーを明るくしすぎた写真は不自然だと話したばかりだったが、この本の写真にはそういう不自然がなく、黒も美しい。
そして、あとがきの一文にも共感する。東京は、演出された場が目立つ一方、その価値に気が付かず通り過ぎてしまう場や人の個性もたくさんあることを実感する。
「六十冊以上もの参考図書を読み返し、あらためて文章を書き直して気づいたのだが、東京で生きている人間は星の数ほどいる。けれど、東京を生きる人間はきわめて少ないだろう。東京に向ける熱い視線は、そのまま自分自身にぐさりと向けられている。「東京小さな旅」は、都市東京を探訪しつつ自分を知る旅でもあった」
こんなところが東京にあったのか。樋口一葉が暮らした本郷の路地。中世の土木技術を伝える羽村の井戸。隅田川の流し雛。開業当時の面影を残す地下鉄の駅。新宿御苑のプラタナスの巨樹…。次の休日に訪れてみたくなる東京の、はとバスの行かない名所旧跡79か所を、つややかな写真とエッセーで案内する。(Book データベースより引用)